安全バー

テキスト

麻浦区にて

銅像のとなりに座る 目が合わない、手に触れると冷たい。そこは博物館であったが、たとえば、その像のもうひとつの居場所(とわたしは呼べる人でありたい が、居場所というより 彼女はどこにいたっていいのです)のことを考えると、目の前にはどこまでも現在があるでしょう ひとりの人間では非力で、歯がゆく、届かないことばかりであるが。この となりに座る 体験を集団的に保持できたなら、巨大な悲しみを皆が受け入れられたなら いや、こんな生易しい言葉なんかで片付けてはいけないのです。常に語り損ねる。9月のわたしはその冷たさが、握られた拳に寄り添うのはとても難しく遠い道のりであるということが、あまりに大きい 事実であり、事実だ、と、どうにかして誰かに伝えたかった。 土地が分け隔たれている 遠いものはそりゃあ見えないだろうと、だからとなりに座って まずはじめに死んでいる、生きている、全ての霊に触れること

 

そのときちょうど、海を渡った彼女が、また苦しい苦しい環境に晒されていた(し、いまだって) 彼女はずっと顔を上げて、全てを見ている! その景色はわたしたちの中にも蓄積されていくのです。いったいどうしろと言うの まだわかりません わかることは とにかく怒らなければならないということ 輪郭のはっきりしない文章を載せてしまって申し訳ありません、これは個人的な区切り・これはただの感情の話 そこからは切り離して発話、発話を重ねてゆかねばならない。たとえそれによってディストピアにせまる結末になろうとも、です。いつかは淘汰される それだけは諦めてはならない

ハロー

いまは仁川に降りたつ母親をむかえにいく、電車を待っている。今日の昼に22キロのキャリーケースを押し歩き、近所の大学の郵便局に荷物を送りに行った。電車が来たので乗る

郵便局の話 大学内に位置するものだと、基本的に外国人学生の応対に慣れているので、だいたいの職員のひとはやさしい。持ってきた荷物の中に、今年の5月ごろ友達と行ったゲームセンターでもらった景品があったのだが、床にキャリーケースをひろげて箱に詰めていると、職員がやってきて、ピカチュウだね!と言われた。笑ってるピカチュウの人形   帰り際にも、書類に書いた英字をほめてくれた。

そのあと、82年生まれキムジヨンの映画を観に行った。ソウルに来る前の1月末に原作を読んでいて、めちゃめちゃショッキングというか、言っていることはまったくめずらしいものではないのに(それはそれとして大きな問題だが)息苦しくなりながら明大前駅でズーンとしていたのだけれど、映画版では比較的ライトにまとめられており、今後の救いが望めるようなラストになっていた。小説版のラストは、なんというかもうホラーなので。最後がいちばん厳しかった。今回はカウンセラーも女性であった。帰宅して(小説はこちらに持ってきていたので)ラストシーンを中心にパラパラと見返していたら、原作版カウンセラーの〈妻〉が数学ドリルに嵌っていた。映画版に保育園つながりで登場した彼女の夫なのだろうか。とりあえず時系列的に該当しそうなあたりを読み返してみたがとくにそういった描写は見つからなかった、読んでから日が経っているので原作の内容がかなり抜け落ちているだけかもしれないが。

あとこれはまた別の話だが、登場人物たちの会話がマジで聞き取れてびっくりした。映画館 ほとんど行ってなかったので、最後にみたのMoneyなんだけど(大昔)題材の違いはあるにせよさすがに成長しているのだろうな、、という密かなよろこびを得た。映画版キムジヨンの感想 随時追加していきたい

いつも安全バー更新するときパソコンだから文字サイズの調節しているのだけれど いまスマホで打っているからPC版で見たら字でかいだろうな

空港鉄道に乗り換える駅に着いた。交通カードチャージしないと  した  この駅自体は何度も来たが、小さいバッグひとつで空港に向かうのは地味にはじめてかもしれない 最初来たとき改札出ることさえ苦戦して駅員呼んでいたのが懐かしいな、いまでは駅さえもたしなめることができる。そういえば中国の地下鉄でも一回改札出るのに失敗して、ニコニコと手振りで切り抜けた記憶があるが 外の世界に出るのはたいへんだよな ためされているような気持ちになる(いまルックアップしたらthe examination of ticketsと出た。たしかに)

 

追記:12/8 文字サイズを修正した。日本では死にそうになりながらもなんとかやっている。昨日、とりあえず生きられる程度の環境に身を置くという目標を打ち立てた。

とりあえず落ち着いた

ソウルに引っ越してから今日で4日目になった。買い出しの類や語学学校のテストも一段落ついたので、溜まっているメモを消化しつつ整理したいと思う。

3日の朝、わりとギリギリの荷造りを終えると特大の鞄が3つ、大が1つ、標準が2つとかなりキャパオーバーなありさまであったが、まあなんとかなるやろと思って(母には絶対途中で挫けるよと言われた)車で空港に向かう。車中でプリキュアの5話を見つつ*1、雨で道が混んでいたので到着に遅れないか心配していた。空港に着くも時間が時間だったので、そのまま路肩に停車し、荷物に纏わりつかれながら(?)あっさり母と別れた。

チェックインを済ましていたので荷物だけ預け、当然のように超過料金を支払い出国審査に向かうと、先月の2割くらいしか人がおらず、それもあっさり終わった。ロビーの椅子に座り、身仕舞を整えて時間を待っていたら母から電話がきたので話す。2分。そして飛行機に乗る。

機内食のメニューがチキン、の部分だけ聞こえたので、チキンの何かな?と思ったらチキンカレーだった。おととい(今から数えると5日前)を思い出す。カレーの中の野菜が茄子・インゲン・パプリカなど苦手なもの尽くしだったが、食べてみたら普通だった。でも、これは特例で、帰国してこれらが出てきても別に食べないだろうなと思う。付け合わせのポテトサラダ(苦手)にはチリパウダーがかかっていて、これには感嘆したものだったが、それでも後半は徐々に厳しくなっていった。隅のほうにオリーブがあったので齧ってみたらひと口でダメだった。高1のときのバイト先でみんなでオリーブを食べたときも、そういえばわたしは食べれない側だったな。 同じくダメ派だった気がする社員のお姉さんは、転勤先の大阪で元気にやっているだろうか。バイトのお姉さんは、しばらく顔を出していない間に赤ちゃんを産んだらしいけれど、名前も何も知らずじまいだ。あとで父親に聞いてみよう(と書いたものの、まだ連絡していない)。デザートのフルーツはぜんぶ美味しかった。噛み砕きながら白熊マヤのことを考える。サモエド犬だけど白熊。テーブルの上で指をぐらぐらさせながら奥歯で果物を押しつぶした。

ポテトサラダを食べ終えたあたりで、満腹で手足がびりびりしていたのでコッペパンは食べなかった。メモの機内食の項だけがなぜか長い。

本を読んでいたのでモニターは使わなかったけれど、黒くぼやけた顔が視界に入るたびに、blur background*2だ…と思うのを繰り返す。数日前に昔描いた絵を見返していて、そのうちのひとつに(おそらく)神の絵があり、そこで、若干間違った英語で背景について言及されていた*3からかもしれない。

金浦に着くと驚くほど暑く、しかし荷物も驚くほど多かったのでコートを脱ぐに脱げず、汗をダラダラ流しながら入国した。あの指紋登録のとき、つま先を伸ばしてしまう楽しげな癖がある。預け荷物を回収し、入居まで時間を余らせたのでツアー客に紛れて休憩した。ここでやっと微細粉塵のことを思い出して、前回の訪韓で入れておいた大気状態を確認するアプリを見ると〈最悪〉と出ていたのでおお、と思う。たしかに外がなんとなく黄色い気がするが、〈悪い〉で外出したときは、アレルギー体質の割には結構平気だったので特に気にしていなかった(のちにニュースやツイッターで散々目にすることになるのだが、わたしが入国してから3日間は最大級に空気が悪かったらしい)。ちょうど良い時間になったので鉄道に移動する。ここからが本番なのだが、電車に乗り込むときに一番大きいキャリーケースの持ち手が抜け、以後鞄を上に乗せることも、紙袋を引っ掛けることもできなくなり、完全に初手で詰んでしまう(しかしこの程度で挫けはしない)。出入り口を跨ぐかたちでキャリーケースが横転したので周りの人に持ち上げてもらい、なんとか空港鉄道は乗り切る。乗り換えの駅でも、エスカレーターで荷物が段差を越えられず滑り落ちてしまったものの、後ろの人がキャッチしてくれて事無きを得た。そして自宅の最寄りでまごついていると、またしても下車を手伝っていただく。ありがたいことに、ここまでで計6人くらいに助けられてしまった。

それでも精神的に取り乱すことなく、無事に入居を終える。何か儀式みたいなものがあった気がしたのだが(書いていて思い出した、ジャージャー麺だ!食べればよかったな)、とりあえずWi-Fiがうまくいかない以外に問題点は見当たらなかったので、マートへ必需品の買い出しに向かった。

3回ほどマートと家を往復し、そのうちの2回は道を間違えて帰ってきたので、初日の夜から街の構造を大体把握できた。飲み屋街が近くにあるので喫煙者がとりわけ多く、風が吹いて線香花火みたいになっていたりした。酔っ払い、開店祝い花を持ち上げて踊っている人は楽しそうで良い。

それにしても、生活をはじめるには買うものが多すぎる。マートはスーパーというよりディスカウントショップなのでだだっ広く、カートを押して永遠に徘徊し、エコバッグに入りそうな限界に到達したら計算台を探して永遠に彷徨った(実際に20分は見つからなかった)。Wi-Fiも1日目の時点では外でしか拾えないので、連絡もここでしていたのだが、母と最後に電話したのが夜10時の、厳つめな音楽の流れるドラッグストアだったせいか、翌朝やっと受け取ったLINEの量に戦慄したものだった(まあそこまではいかないにしても、卒業式で友人に言われた、お母さん意外と過保護だよね、の真意を実感する。さすがに観念してLTEも繋がるほうのアカウント教えたけど)。

水が硬いので水道水が料理に使えず、ミネラルウォーターを購入する必要があったのだが、2リットル6本セットはなかなか決意が必要だったので、一旦諦めてコーラの2本セットを買った。鍋もコップも買えずじまいで、その夜はひたすらコーラを直で飲みながら、警察24時的な番組があったのでじっと眺めた。

 

2日目はWi-Fiを解決するために家に何人も出入りした。最初にやってきた同い年の男の子の検査で、機器の不良ではなく回線の問題とわかる。最終的に大家の甥が修理したのだが、その人の独り言の口がめちゃめちゃに悪く「はあ?なんだこいつ」と思いつつ、直前に水を手に入れたので炊飯をはじめる*4。炊き終わったときに「米炊いてんのかよ(ニュアンス訳)」と小声で言ったのをわたしは聞き逃してないからな。その後質問されたときにちゃんと答えたので、韓国語上手ですねと言われる。うるせえよ。

色々と普通に抗議したかったが、家バレしてるし、キレられたら力では勝てないのでとりあえず受け流すことにした。このことで、外堀を埋めて無傷でねじ伏せる方法の開発が目標に追加される。文字にすると、米にいちいちむかついてるようで滑稽ではある。そういう面もあるにはある。

ともかく買い出しはまだ続く。前日、あれほど肩を潰したにも関わらず、今日になってもエコバッグの中身は減るどころか昨日より重たくなっている。前述した水はとてもじゃないけど10分歩けそうになかったので、しばらくは使わないようにしようと思っていたタクシーを早々に解禁してしまう。初乗りで家に着けたのでセルフ赦しを与えた。このくらいの単位で発動するぶんには健康的である(はず)。

円滑に生活するために大きい荷物を持って道を移動していると、土地に定着するために身体に重しを載せられている気がしてくる。実際に重さで足はそんなに上がらないし、根が張られていくのを感じる。帰宅してベッドに横たわり(生気吸われる…)と思ったところで、Cemetery of Splendour*5を想起した。となるとこの下では今でも兵士が戦争を続けているのだろうか、あながち冗談にならない。2016年のアピチャッポン展カタログを持ってきていて良かったけれど、これは傲慢な想像だ。しかし床に近づくことは最近ずっと考えていることでもあり、もし、その一線を越えられるとするならば地面に超接近しなくてはならない予感がある。月にでも行かない限り付いて回る問題だけど、わたしの出身を鑑みるに、今いる土地では質が異なる。そういえば、人間の土地は実家に置いてきた。

この日はやっと自炊をする環境が整ったので、1日目に買っておいたソースでカルボナーラと、サラダを作って食べた。渡航前に母に教えておいたテレビ電話が掛かってきたので、立てかけて食事しながら話していると、「(名前)ちゃんがそこにいるみたいでいいね」と言われる。めちゃくちゃ嫌な気分になったので、寂しくて食欲がないと話す彼女に、「なにそれ、死ぬじゃん」と言い返した(わたしが感じた嫌さはこういうものだった)。テレビで見た芸能人夫婦が仲良しでかわいい。

筋肉痛がピークになり身体中に覚えのない痣が散見される。ぶつけたんだか体内で血管が切れたんだかわからない。

 

3日目は学校でテストがあったので、早めに起きてチョコレートのシリアルとパンを食べた。駅まで走るとなんやかんや電車に間に合うことに気づく。パパッと終わったので卵とごま油をコンビニで買って一度家に戻った。基本的に袋は購入制なので、街中を、卵と油を片手ずつ持って歩く。他にも風呂桶の中に財布を入れて歩いたり、何かとイレギュラーな露出を繰り返している。オリエンテーションのために再び大学構内に戻り、口座をあっさり開設した。同時にチェックカード(デビットカード)をもらえたのが嬉しくて、即持てる限りのウォンを入れた。お店やタクシーでの現金払いはそれなりの肩身の狭さがあるし、通貨単位的に使いどころの難しい小銭が増えなくて良い。

大気状態でいえば前日がより悪かったらしいが、文字通り塵が積もったのか、一瞬マスクなしで出歩いたからかわからないけれどこの日は結構咳が出た。作りたてのカードを持って近所のダイソーに行った。日本語で説明の書かれた商品が多いものの、それを見たときの、あ!わかる!みたいな感慨がほとんど消滅している。18年接している言語なのでボキャブラリーは天地の差だけど、目の馴染みは5:5は難しくとも6:4くらいまでは詰めれているんじゃなかろうかと思う。あくまで親近感レベルの話なので、中身が全く追いついてなくそのへんで凹むけど、まあ、勉強以外に方法はない。ダイソーでは魔が差してペコちゃんの絆創膏を買ってしまった。かわいい。菜箸は揚げ物箸(直訳)を覚えた。

夜は昨日と別のメニューにしようと思っていたけど、カルボナーラソースの封が開きっぱなしなのが気になって、結局全く同じものを食べた。この日ついに寝落ちをやってしまい、起きたら朝だった。過重労働(?)の疲れはだいぶ取れてきている。

 

今日(これを書いている今はすでに日付が変わり昨日になった)は予定もなく必要なものも一通り揃っていたので、鐘路あたりまで足を伸ばそうと思っていたけれど、二度寝三度寝にシャワーまで浴びたら夕方になってしまい、ついに家から出なかった。微細粉塵が比較的少なめだったので家の換気をして、サンドイッチを作って食べた。本当は夜にキムチチャーハンを作りたい、というかおとといからずっと作る気満々で材料を揃えていたのになんだかうまくいかず今日も作れなかった。明日こそ絶対に作る、なんなら朝からチャーハンでも良い!と思ったけど、パンの賞味期限が怖いからどうせまたサンドイッチを作ることだろう。昼以降だ。そして明日は外に出よう。鐘路は厳しくても聖水には行きたいな。これまでは変なスイッチを入れずに(2週間くらい前、ちょっと危なっかしくなったから)とりあえず生活に集中しようと考えて、そのようにコントロールしてきたけど、ここからは、自制心を厳重警戒レベルに引き上げて骨盤の関節をはずしてみようと思う。

*1:まどかちゃんの変身に間に合ってよかった

*2:モザイクをかけるアプリの名称

*3:いまやその主張は理解できないものになっている

*4:空炊きはしない

*5:Cemetery of Splendor - YouTube